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004:歌姫 -3-
再生できませんでした
「あの夏の思い出 -Music Box-」By VaLSe様
OLD WOODS HUT URL:
http://valse.fromc.com/
ゾロは驚いていた。
サンジがそっと歌いだしたのは、子守唄だったのだ。
しかし、歌い始めて僅か数秒の間に、周囲の空気は一変していた。
――歌以外の音が消えた。
あらゆるものが耳をすませてサンジの歌に聞き入っているかのような静けさだった。
あれだけうなされていたウソップも、今は静かに眠っている。
同様に、ルフィのイビキもやんでいた。
風さえ止んで、梢の揺れる音すらしない。
その只中に、小さく、優しく、子守唄は響いた。
記憶にないほどの遠い昔、自分はこの歌を確かに聞いたことがある…。
そう思えるほど、その歌声は懐かしさをはらんでいた。
子守唄はすぐに終わった。
もともと短い歌だし、同じフレーズを何度も繰り返す単純な歌だ。しかしその余韻はい つまでも森を満たしていた。
…気がつくと、森には音が戻っていた。
あれほど静かだったのが嘘のように、様々な音が、うるさいくらい耳に飛び込んでく る。
いつの間にか閉じていた目をうっすらと開き、ゾロはサンジを見やった。
「…《奇跡の歌い手》とはよく言ったもんだな」
「俺なんざ、まだまださ。ま、今夜はよく眠れよ。明日も忙しくなる」
サンジはゾロから離れ、焚き火の傍でゴロリと横になった。
ゾロは横になったまま空を見上げた。
旅先で聞いた《奇跡の歌い手》に関する噂を思い出してみる。
――眩いばかりの金髪に、海のような青い瞳。
――どういうわけか、片目を前髪で隠している。
――滅多な事では歌わず、むしろ前線で戦うらしい。
――彼の歌一つで国が滅ぶらしい。
――死んだ人間が、彼の歌で生き返った。
――実は女だ。
そして、噂なんて当てにならないものだと痛感した。
もっとも、正直な話、ゾロは最初サンジを見て一瞬女だと思った。直後、自らの名前を呼んだ声 で、それが勘違いであるとすぐに気づいたが。
ゾロは、横になってすぐに規則正しい寝息を立て始めた、己の「拾い主」を一瞥する。
そして、今更ながら、あれだけあった傷が全てふさがっている事に気がついて愕然とする。
あんな小さな子守唄ひとつ歌うだけでこの威力だ。
サンジが本気で『歌』ったら、一体何が起こるのだろうか。
…だが、まあ、悪い奴じゃねぇだろう。
静かに起き上がり、あぐらをかいて座ると、三本の刀を抱き込むようにしてゾロは目を 閉じた。
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