300Hit自爆記念小説







鳥篭の大空




 此処の空気は何て重たいのだろう。

 一歩も外へ出る事を許されず。

 訪れるものもほとんどいない。

 一日3回、決まった時刻に転送されてくる食事と、中庭から見上げた空を運行する太陽だけが、刻を知るすべで。

 此処の時間は止まっているかのように、静かだ。

 神殿とは名ばかりの、この牢獄に入れられて、もうどれだけの時が過ぎたのだろう。

 近頃では、「歌」を強要されることもなくなった。

 本当に、声が出ないからだ。

 「歌」は強要されなくなったが、アイツは此処へやってくる。

 俺をいたぶるのが楽しいのだ。

 悲鳴も罵声も上げられない俺を、好きなように弄ぶ。

 俺が気絶するまで抱きたいだけ抱いて、放り出して帰っていく。

 恨み言一つ、言う事も出来ない。

 夜は眠れず、やっと眠れたと思ったら夢を見る。

 あれからきっと長い時間が経ったはずなのに、毎日のように夢を見る。

 紅い夢だ。

 全てを失った瞬間の、真っ赤な夢。

 俺は夢の中で泣き叫んでいる。

 けれど目が覚めてみれば、喉はひゅうひゅう鳴るばかりだ。

 今日も同じ夢を見て飛び起きた。

 途中までは幸せな夢なのに、真っ黒なアイツが現れて、夢は真っ赤に染まる。

 ぼんやりとしながら、中庭で空を見ていた。

 無機質なこの場所の中で、唯一緑色の場所。

 遠い遠い青空。一日に数時間しか差さない太陽。

 思い出すのは、幸せな日々。

 二度と戻れない、美しい日々。

 目を閉じて、このまま空気に溶けて消えてしまえと願う。

 すると、あの人の最後の言葉を思い出す。

 「生きろ」という、たった一言が、俺を繋ぎとめている。

 哀しい。

 哀しい。

 けれど、生きなければならない。

 例えこの身を仇に汚されようとも。

 それがあの人の願い、あの人の思いなら。




 鳥篭は絶望を育んでいく。

 生きながら死んでゆく。

 大空はそこに見えるのに、決して届きはしないのだ。

 

 鳥篭の中の金色の鳥は、そっと静かに目を閉じた。



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